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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁

青空文庫

「はいれ」と甲斐は云った。

塩沢丹三郎がはいって来て、襖際に、平伏した。甲斐は「しばらく待て」と云い、また手紙を書きつづけた。

――涌谷(伊達安芸)と寺池(式部宗倫)の地境論が、涌谷の譲歩によって解決したということは、こちらで聞いた。涌谷は紛争を避けるために譲歩したのであろうが、寺池は若年のうえに、欲心の強い人だから、図に乗ってさらに同じような事をやりはしないかと思う。領地境などというものは、紙上に線を引くのと違って、踏みつけ道を削っても動かすことができるし、その異動を明確にすることは困難なものだ。ことに、「土地」というものは、持つ人の性格にもよるが、殖えれば殖えるほど、さらに殖やしたくなるもののようである。こんどの争いでは、一ノ関が寺池を煽動していたらしい。これからも煽動するだろう。したがって、気をよくした寺池が、また地境を侵す心配は充分にあると思う、涌谷は譲歩されてはならなかった。問題は小さいうちに、その理非を明白にしなければならないのである。

――近いうちに増し御合力(藩臣に対する加役)の沙汰が出るもようだ。おそらく反対者があると思うから、国もとのようすによく注意して、なにかあったらすぐ知らせてもらいたい。