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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
「わからないことはほかにもずいぶんある」と兵庫介が囁いた、「われわれの毎日の生活も、これからどうなるのか、あすの日どんなことが起こるか、なにもかもわからない、おれたちはまるで、柿崎に飼われている労馬のようなものだ」
「みんなで相談をし直そう」
「おれは幾たびもそう云った」と兵庫介は唇を曲げた、「この道場と、牝犬のように淫奔なあの三人の女と、柿崎の贅をつくした生活を支えるために、これ以上汗をかくのはおれはごめんだ、もうおれたちも考え直すときだと思う」
「みんなで相談をしよう、今夜にでもみんな集まるとしよう」
「だが、問題は食うことだ」
「むろん眼目はそのことだ」
「みんな食いつめたあげくのなかまだ、食えないことの辛さは、みんな骨身にこたえているからな」
「おれはあの人に会った」と藤沢内蔵助が囁いた。
兵庫介は訝しそうに彼を見た。
内蔵助は一種のめくばせをし、すばやく囁いた、「いつか西福寺へ来た人だ、しかしそれはあとで話そう」
新八は自分の袴の裾を踏みつけて、前のめりに転倒した。躯じゅうの力がなくなっていたから、朽木の折れるような倒れかたで、床板を叩く額の音が大きく聞え、彼はそのままのびて、いまにも死にそうに、絶え絶えに喘いだ。