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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
「立て、新八、まだ稽古は終らないぞ」
六郎兵衛は冷やかに云った。彼は稽古着ではなく、常着に袴という姿で、それがかなり颯爽として見えたし、また、一面にはひどく冷酷な感じでもあった。
「起きろ」と云って六郎兵衛は、革足袋をはいた足で、新八の肩を押しやった。
「それはひどい」と石川兵庫介が云った、「いくらなんでも足にかけるのはひどい、それはあんまりだ」
「では代ってやるか」と六郎兵衛がそっちへ振返った、「石川自慢の双突きも久しくみない、一本どうだ」
兵庫介は顔色を変えた。六郎兵衛の唇に冷笑がうかんだ。彼はあざけるように云った。
「蔭でこそこそ耳こすりをするほうが、木剣を使うより身についたらしいな」
「なんですって」
「もういちど云おうか」
兵庫介は立った。野中が「待て」と云ったが、彼は木剣架けへとんでゆき、自分のを取って、道場のまん中に立った。
「いさましいな」と六郎兵衛が云った。
そして「野中」と木刀を振りながら、「新八を伴れていってくれ」といった。
野中又五郎はなにか云おうとした、六郎兵衛の前までいったが、なにも云わずに、新八を抱き起こし、肩に担いで出ていった。