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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁

青空文庫

そうだ、このまま出奔しよう、と彼は考えた。

材木町の家へ帰れば、またおみやにつきまとわれるだろう。そして、柿崎六郎兵衛もたのみにはならない、と彼は思った。たのみになるどころか、彼は逆に、おれを利用してさえいるようだ。――新八は歩きつづけた。

そうだ、柿崎はおれをなにかに利用している。妹に妾奉公をさせていた彼が、いまでは道場のあるじになり、女を三人も使って贅沢な生活をしている。いったいどこからそんな金が出たのか、そうだ、いったいどこからそんな金が出たのか。寺へかよいだいこくにいっていた妹も、いまではどこかの武家屋敷へ奉公にいっている。もう妹に稼がせる必要もなくなったのだ。つまりそれだけの金が、どこからはいって来るのであろう、どこからだ。

「一ノ関」新八は唇を噛んだ。

藤沢内蔵助らの話しが、いまべつの意味で思いだされた。一ノ関の用人が扶持しようという、同じ人の手から柿崎にも扶持が来ている。とすれば、そのたねはおれだ、と新八は思った。

「柿崎は畑姉弟をも、そうだ、畑姉弟をも手に入れようとした、姉弟を保護するためではない、おれと同じように自分の手に入れて、一ノ関から金をひきだすたねにしようとしたのだ」