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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
「谷地を川上のほうへいったようです」
「川上へいった」と甲斐は訊き返した。
きよきは「はい」といった、「雪の中でよく見えなかったですが、谷地から山の裾へつき、それをまわって川上のほうへゆくのを見たです」
「よし、気をつけて帰れ」
娘たちは、ひろげた器物を片づけて、帰り支度をした。甲斐もこのあいだに毛皮の胴着を重ね、鹿革の股引に革足袋をはいた。そして棚の上から、かもしかの毛皮を縫い合わせて作った寝袋を取りおろして、猪の焙肉や、薄焼や、干飯やかち栗、乾した杏子など、それぞれの包みを中に入れて巻き、それを背負えるようにしっかりと括った。与五兵衛はふきげんな眼つきで、身動きもせずに、じっと甲斐のすることを見ていた。
「もう一つ申上げることがございます」と隼人が云った。
「急用でなければあとにしてもらおう」
「江戸から宇乃と申す少女がまいりました」
「江戸から、――」と甲斐は振返った。
娘たちは支度を終り、蓑や雪帽子を着けて、挨拶もそこそこに出ていった。甲斐はそろえた矢を壺胡に入れかけたまま、不審そうに隼人を見た。
「宇乃が来たというのか」
「昨日の夕刻、惣左衛門の書面をもって、辻村と塩沢の二人が伴れてまいりました」