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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁
「いろいろと、いやな噂が、お耳にはいるのです」と夫人が云った、「――殿さまはずっと、船岡どのを頼みにあそばしておられますので、噂を聞かれるごとに気を病まれ、会って実否を知りたいと仰せられていたのです」
「お部屋さまに申上げます」
「おれに云え」と綱宗が云った。
甲斐は聞きながして、「お部屋さまに申上げます」と云った、「私がここへ伺候いたさなければ、伺候せぬことについて噂が飛び、伺候いたせば、伺候いたしたことであらぬ噂が飛びましょう。私は力も才もない人間でございますが、もし殿が些かなりとも頼みにおぼしめされるならば、噂やかげ口などに、お耳をかされませぬように、お願い申します」
「そうはいかぬ、そうはいかぬのだ」と綱宗が云った、「ただ甲斐のことだけなら、どんな噂も気にかけずに済むだろう、だがおれの耳にはいるのは甲斐のことだけではない、伊達六十万石の存亡にかかわるような問題が、甲斐の動静とともに伝わって来る」
「それについては、このまえおめどおりのときに、申上げてある筈です」
「いや違う、このまえはすべて事実無根だと申しただけだ」
「ただいまでも、さように申上げるほかはございません」