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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

二人は彼を元のように寝かし、新左衛門はやや暫く、眼をかたくつむって、喘いでいた。

「靱負、遠慮をしろ」とやがて新左衛門が云った。

靱負は次ノ間へさがり、新左衛門は眼をあげて、甲斐を見て、このざまだ、わかるだろう、と力のない声で云った。

「やっぱりだめだった、痩せたのは病気がおさまったからだと思ったが、そうではなく、衰弱し始めていたんだ」

こんどはだめだ、もう時間の問題だ、と新左衛門が云った。甲斐は黙って、静かな表情と、温かい、劬るような眼で、新左衛門を見ていた。

「死ぬことはなんでもない、なん年もまえから、こんどこそ死ぬだろう、という峠を幾たびも越して来た、死ぬ覚悟はできているが、やりたいと思ったことを、やらずに死ぬのがこころ残りだ、どんなにこころ残りか、わかってくれるだろう」

「誰にしても、やりたいことを全部やって、こころ残りなしに死ぬ、というわけにはいくまいと思う」と甲斐が穏やかに、ゆっくりと云った、「もしも小野がし残して、どうしてもやらなければならぬことがあるなら、誰かが小野に代ってやるにちがいない」

「誰かではない、船岡に頼みたいのだ」と新左衛門は云った、「苦しいから単直に云う、一ノ関を除いてくれ、知っているとおり、故人の古内主膳どのは、義山公(故忠宗)に殉死するとき、一ノ関の奸知こそ御家の害になろう、