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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

「――浪人しています」と新八は吃った。

同心らしい男はふんと頷き、振返って目明し態の男に「年は若いといったな」と訊いた。そして、また新八に向き直って、住所と姓名を聞きたいと云った。新八は睡をのみ、そして「本所です」と吃りながら答えた。

「本所のどこです」

「本所の、向島の牛御前の近くです」

「あの辺も本所といいますか」

「そう聞いたようですが」

「御姓名は」男は板壁のほうへ眼をやった。

それまで新八を見ていた眼をそらし、言葉つきもしだいに訊問口調になった。新八は、腋の下に汗のにじみ出るのを感じた。――道場のことを云えばいい、天神下の道場をしらべてもらえばわかる、だが、こんなところで遊んだことを知ったら、みんなはどう思うだろう、野中さんたちはなんと云うだろう。新八の眼には、いつも自分を疑わしそうに見ている、島田市蔵の顔が思いうかんだ、――いや、だめだ。それはできない、道場の人たちに知らせることはできない。また、脱走者である以上、本当の名をなのるわけにはいかない、新八はこう思って、野中忠之進である、と答えた。

男は板壁のほうを見ていて、そのままで、「でたらめだな」