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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

――黒沢の谷地だ、いそげ。

「斎宮はまだか、大槻はどこだ」

――ただいま、ただいま。

「曲者はまだいるぞ、谷地までは遠すぎる、ここで医者を待とう、館へすぐ誰かやれ」

――お館へはもう多田がまいりました。

「医者と人数を呼べ」

――御家老です。

――斎宮にございます、いかがあそばしました。

「曲者だ、曲者に矢を射かけられたぞ」

――そのおけがは。

「矢を射かけられた、鹿込の山をおりる途中で、栂の林の中から矢を射かけた者があった、紛れはない、姿も見たぞ」

――権右衛門。

――はっ、お館へは人をやりました。

「はなれるな、まわりに集まれ、斎宮、まわりを固めてはなれるなと申せ、ええくそ、その足に触るなと申すに」

――おけがは足でございますか。

――それは御落馬のときに。

「このばか者、落馬ではない、二ノ矢を避けるために下馬したのだ」

――矢ではございませんか。

「矢ではない、矢はかすった、矢は危うく笠をかすった、二の矢が来ると思って、すぐに下馬したが、そのとき挫いたのだ」

――権右衛門、お鴨場の小屋へまいろう。

「おれはここで医者を待つ」

――お鴨場の小屋がようございます。