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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

そして、道は堀川にゆき当り、石の架け橋を渡ると、城の大手門があった。

村山喜兵衛が先触れにゆき、すると、安芸の子の兵庫宗元と、家老二名、高野仲兵衛、大平一郎兵衛とが、大手門まで迎えに出た。甲斐はそこで、馬を返すようにと命じ、出迎えの三人と共に、城へ登った。

涌谷城は大手門からすぐ石段になり、鉤の手に登り詰めたところが中門、それをはいると左に、二層の太鼓櫓があった。そこは広場で、左に館、右に諸士の詰所や役所が並んでいる。――甲斐は館へゆくまえに、広場の左の端のほうへ足を向けた。

「ここへ来ると、この眺めを見るのが楽しみだ」と甲斐は云った、「私には構わず、先にいっていて下さい」

「私がおりましょう」

兵庫はそう云って、二人の家老に眼くばせをした。高野と大平は去り、甲斐は台地のはずれへいって立った。

台地の外側は白壁の塀で囲ってあり、そこからは高さ七十尺ほどの切立ったような崖で、崖の斜面には杉がびっしりと枝をさし交わしていた。その杉林を越して、向うに、ひろびろとした眺望がひらけ、平野のかなたには黒川郡の山やまや、出羽の国の山なみが、早春の午後の光のなかに、くっきりと青く見えた。