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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

――置毒が行われたときは、かねてうちあわせたことがあるので、自分(鳥羽)はすぐ原田どのに連絡をしたかったが、全家中に禁足の布令が出て、小者下郎までが外出をとめられたため、知らせることができなかった。

――この部屋子も、無事に湯島までゆき着くかどうかわからないが、幸いにしてこの手紙が届いたら、できるだけ早く帰って、必要な処置をしてもらいたい。

そして、自分も居室謹慎を命ぜられた、という文言で、むすんであった。

「丹三郎、――丹三郎、……」と甲斐は低くつぶやいた。彼はその手紙に行燈の火を移し、立っていって、火桶の中ですっかり灰にしながら、使いの部屋子を待たせてある座敷へいった。そこではおくみが、茶菓をもてなしているところだったが、甲斐はおくみをさがらせて坐り、二、三の質問をした。部屋子の少女はおびえていた。十四歳ばかりの、小柄なやせた娘で、顔はあおざめて硬直し、両手は組合わされたまま、見えるほどふるえていた。

鳥羽はどうしているか、罪人たちは仕置きされたかどうか、という甲斐の問いに、少女はただ、知らない、と答えるだけであった。

「わたくしなにも存じません、どうぞすぐおいとまを頂かせて下さい、親元へ帰らなければなりませんから」