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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁
「噂は聞いているようだ」
「噂だけか」
「伊達家の家臣でもないのに、よく藩邸へやって来て、誰の家へも平気で出入りするし、身分の高下を問わず友達あつかいをする、いったいどうして、誰があんな特権を与えたのか、――みんながそう不審しているようだ」
七十郎はくすくす笑った。
「誰の家へでも、ということはないね」と彼は云った、「誰でも構わずということはない、おれはどっちかというと不拘束な人間だが、それでもわりかた性分は潔癖なんだ、友達あつかいをする値うちのある者は友達あつかいをするが、そうでないやつまで友達あつかいをするほど堕落してはいないよ」
「そうだとすると」と七兵衛が云った、「正式に紹介されたこともないのに、路上でいきなり話しかけたり、名を呼びすてにしたりするのは、どちらの意味だ」
「そんなことを気にするな」
「どちらの意味だ、友達あつかいか、それとも軽侮か」
「もうひとつべつの意味だ」
七十郎はそう云って、振返って、うしろにいる万右衛門を見た。万右衛門はにらみ返し、七十郎は七兵衛に云った。
「だが、その話しはあとのことにしよう」
渡辺七兵衛が、同行を好まないことは、七十郎にもよくわかっていた。