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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁
とおみやは云った、「兄に話しがあるのよ、あなたにも話すことがあるの、あとで来るわね」
「どっちでもいいさ」新八はまた欠伸をしたが、こんどはそら欠伸のようであった、「おれのほうには、べつに用はないぜ」
「怒らないで」とおみやは低い声で云った、「いろいろ話して、わかってもらいたいことがあるのよ、怒らないで待っていてね」
「どうせ檻の中のけものさ、云われなくってもここにいるよ」
「すぐに来るわね」とおみやは云った。
新八はまたごろっと横になった。
柿崎六郎兵衛は酔っていた。
湯島の家へ、原田甲斐を訪ねたのは、二、三日まえのことであるが、帰って来ると飲みはじめたまま、寝るときのほか、ずっと飲み続けであった。
そばには女が二人いた。おきの、志保、といって、おきのが二十歳、志保が十九になる。まえにいた三人は出てゆき、この二人は三月に雇いいれたものである。まえの三人は、六郎兵衛の酒癖と乱暴に耐えかね、いとまも取らずに、逃げだしたのであった。いまいる二人も、六郎兵衛の癖には馴れようとはしない。もう五カ月にもなるが、彼の異常な性向には、どうしても応じなかったし、むりに命じでもすれば、すぐにでも出てゆくようすを示した。