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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁
時どきうしろを振り返り、まともに日を受けてまぶしそうな眼つきを、そのまゝこつちへ向ける市ノ瀬牧人の顔を、康子はしげ/\とながめていた。それは、なんの感情も示さず、たゞ無心に目的地を目ざして舟を進める男の顔であつたが、彼女は、だん/\その顔から眼をそらさないわけにいかなかつた。
舟はもう岸に近づいていた。そこはアシの茂つた川口のようなところで、軒ばたに投げ網を干した家が一二軒、木立のなかにみえていた。
市ノ瀬牧人は、こぐ手をゆるめた。ボートがアシのすき間をする/\と滑つて行くと、川岸がそのまゝ細い道になり、道ぞいに石を積んだ舟着き場ができていた。
と、そこからいくらも離れていない、茶店風の家の薄暗い土間から、一人の若い女の姿があらわれた。北原ミユキである。
「ようこそ……。お待ちしてましたわ。たぶん舟でいらつしやるだろうと思つて……。だつて、市ノ瀬さんがごいつしよなら、それくらいのことはねえ……」
と、彼女は、機敏にボートのふちへ手をかけて岸へ引き寄せる。
「あらまあ、合い図かなんかしてあるみたい……。でも、こゝからが大変なんでしよう」
井出康子は、岸へ飛びうつりながら言つた。