輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
ひのとびら
火の扉
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁
「そんなら、言わなくつてもいゝよ」
「うゝん、言うわ。そのかわり、わたし、命がけよ。この手をしつかり握つて、ちようだい。そう、もつとしつかり……顔をみちやいや……」
そう言いながら、彼女は、市ノ瀬牧人の胸へほおをおしつける。
「あのね、わたし、たつた一度、間違つたことしてしまつたの。それが、なんでもない相手なの」
そこまで言うと、市ノ瀬牧人は、頭をふりながら、もう聞くまいとするように叫んだ――
「もういゝ、もういゝ、そんなことはどうだつていゝんだ。君の過去なんぞ、どうせわしとは関係のないことなんだ。きようからの君なんだ、わしに必要なのは……。ほら、そんなこと聞いたつて、わしの手にはこの通り力がはいつとるじやないか」
「ほんとだわ、ほんとだわ……あゝ、うれしい……あたし、泣いていゝ? 泣くわよ」
じつさい、彼女は、眼にいつぱい涙をため、その涙をふこうともせずに、市ノ瀬牧人の頻を晴ればれと見あげる。涙はほおを伝つて流れるのだけれども、彼女の表情には、みじんも悲しみの影はなく、あんどと喜悦の色が、あでやかなまでの輝きとなつて、市ノ瀬牧人の胸をもえたゝせた。
固く抱きあつた二人の影を、ほのかな水面の光のうえに投げて、こぐものゝないボートは、湖心の波にたゞよつている。