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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

その瞳は、気のせいか、獣のように光っていた。

(葉ちゃんは、……義公と東京に行ったんじゃないか……)

がっくりと頸垂れた。

(とても、逢える筈がない――)

黒吉は、研究所の裏門を抜けると、ぽこぽことした白茶けた埃っぽい道を、当てもなく町端れの方に歩いていた。

頭は熱っぽく上気し、引ずるような片足は板のように堅かった。

疲れるにつれて、こんどは耐らなく遣る瀬なくなって来た。わっと泣きたいような、いきなり往来の真ン中にぶっ倒れてみたいような……。

カラカラに乾いた咽喉と血走った眼に、フト、――一寸一ぱい、千鳥食堂――と禿ちょろの看板をぶら下げた居酒屋が写った。

しみだらけの暖簾を、ぐいと肩で押して、這入った。

中は土間に、三四脚の長床几を置いただけの、ひどく殺風景な、薄暗い店であった。

誰もいなかった。

「オーイ……」

と黒吉が声をかけると、直ぐ店に続いて、一段高くなっている居間の、煤ぼけた箪笥の蔭から、

「あい」

と嗄れた返事がした。

「オイ、おみせだぜ――」

その爺の声を引とるように、

「あら、いらっしゃい……」

と、この古ぼけた居酒屋に似合わぬ、陽気な、若い女の声がすると、赤い塗下駄を引っかけた、結綿の女がぱっと花が咲いたように出て来た。