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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁
話に夢中になっているうちに、いつの間にか秋の陽は落ちて、庭先きの杉の木の上には、赤い火星がいつもよりも一際輝き増しかかっていた。大村も英二も、火星を覗きにかけつける筈になっていた天文台のことも忘れ、夕闇に浮んだ窓辺の向日葵をしのぐ巨大な菊の花に見入っていた。
都会の騒音をはなれ、久しぶりのこの高原の静けさにうっとりとしてもう椅子を立つのすら大儀になってしまったのだ……。
――ハッと気がつくと、いつの間にか志賀健吉の骨ばった腕が、しっかりと椅子のうしろを掴み、のしかかるように髭だらけの顔がすぐ耳元に迫り、激しい息使いが、気味悪く大村の横顔を打っていた。
「――、おい誠子、さっきの茶に混ぜといた薬がやっと効いて来たようだぜ、二人ともぐっすりといい気持に睡ってる、ふっふふふ」
(エッ――?)
大村は、ドキンとして飛起きようとした。だが、どうしたことか手足はまるで鉛のように冷たく重いのだ。声さえも出ない。誠子と呼ばれたあの妹が、何かいっていることすら聴こえない。
ただ耳元で激しい息使いとともに喋べる志賀健吉の悪魔のような声だけが、途切れ途切れにひびいていた。