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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

「さあみんな。――皆んな集ったか」

親方は、舞台姿のタキシイドに、得意の髭を撫でながら、一座の者を見渡した。

もう何処からか貧乏徳利が運ばれて、又、ざわざわと小屋の中が、一しきり賑やかになって来た。

黄ばんだ電灯の下に、がたがたの床を踏みならし、酔い痴れたピエロが踊り出すと、いつか印袢纏の兄いが、シルクハットの紳士が、甘酸っぱい体臭を持った、肉襦袢の女たちが、思い思いに捻子をまかれた泥人形のように、がらっとした小屋一杯、猥褻な悲鳴をあげながら、地獄絵巻を展開していった。

激しい笑い声が、耳元で起るたびに、黒吉はコツンコツンと頭を叩いていた。彼は、さっきから小屋の片隅に、そうして胡座をかいた儘なのだ。だが、彼の目は、血走っていた。

(俺が、俺がこないだ見たままだ……)

次々に展開する異様な風景は、寸分違わぬ空に浮く夢の、復習でしかなかった。

普段は、顫えを恐れて、盃にさえ触れぬ、あの源二郎爺の酔い痴れた姿までが――。

背筋に、冷めたい汗が、スーッと駛った。

あてつけかとも思われる葉子と義公との、奇怪なダンスも別な意味で、犇々と覆い被さる重圧をもった悪夢であった。