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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「さっそくですが」
と、短兵急に、加賀田の時親の忠言をつたえて、兄の同意を求めた。そしてすぐ、雨乞い延期の命を、神社へも、領下へも、触れねばなりますまい――と、当然のように言った。
「……ふうむ。それが、加賀田の時親先生よりの、御忠言なのか?」
正成は、うなずかない。
やがてすぐ四十という思慮分別にも富む面ざしに、灯のまたたきが暗かった。幼少の日の怪我とかで、右眼は閉じているように、左の眼より細かった。
「正季」
「は」
「せっかくだが、明日の雨乞いは、延期せず、予定どおり行おう。その心得でいてくれい」
「えっ。お師の御忠言でも」
「正成の心にそむく」
「どうしてです」
「先生は、雨乞いも兵法と、仰せの由だが、正成は、“祈り”でしかない」
「さ、そこを、楠木殿にも似ぬおろかよ、と仰っしゃるのです。降らなかったら、雨乞いも滑稽だ。領民の信望を失うばかりではないかと」
「それでもよい」
「イヤ、よくよく天文を観測して、雨気近しと見さだめてから、雨乞い祭りを触れ出すがいい。さすれば、人心をつかむ妙機となろう。兵法とは、そういうものだ。兵法を知らぬにも程がある、とのお教えなのです」