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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

大小無数の川が、河内平で落ち合っている。石川の本流、餌香川、道明寺川、恩智川などが、いわゆる“川ノ辻”をなしており、また、三角洲だの両岸の芦の彼方にも、散所部落の屋根が望まれ、大きな月一つのほか、すべて渺としていた。

「菊王」

「は」

「あいにく、こよいは満月。あまり河心へ漂い出るな。遠目も恐い」

「して、どう落ちのびまするか。ここは川ノ辻です。西へ下れば、摂津の墨ノ江。北へ行けば、淀川へ出てしまいますが」

「高野へ向うのに、水路はとれぬ。それにまた、川筋には川関もあるはず。ひとまず、舟はどこかへ繋いで、夜半を待ち、陸路へ上がって忍んで行こう。それしか、策はあるまいが」

舟は向きを代える。

芦と芦のあいだを縫い、流れの速くない江のふところを探して行く。貧しい部落小屋が岸に見えた。しかし、灯もなく、騒がしい気配も見えない。菊王は一つの杭に繋綱をとった。

「……潯陽江頭、さながら、ここは琵琶行の詩」

俊基は独り思った。

やっと落着きをえた主従は、月もささぬ苫の蔭に潜んで、何か長いこと、ひそひそ語りあっていた。

菊王が、昨日からの一ぶ始終を語っていたものであろう。