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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「え。……?」
母屋を離れた一亭が彼方に見える。そこの机で読書に顔を埋めていたのは、見も知らぬ中年の男であった。――が、も一人、片すみの欄に、ひじをかけて、物思わしげに、下の水もない涸れ小川に見入っている女性がある。
女性の姿は、暗い翠の翳にかこまれ、その面窶れまでが、妖しいほど美しく、暗所の女人像のように見えた。
「……はて、どうもかつて見たこともない男女。存じ寄りもございませぬが」
「男は知るまい。だが、女子の方は、その幼少の頃より、爺がよう知っておる者ぞ」
「ほう? ……」
遠い凝視をいつまでもして。
「やはり、わかりませぬなあ」
「爺、あれは卯木だ」
「げっ。……卯、卯木さまでございますとな」
「待て、爺」
彼の袂を抑えて、正季は彼の足もとを、一そう木蔭へ引きもどした。
「そっとしておけ。そちが俄に顔など見せたら、卯木は、女童のむかしに返って、わっと、いちどに泣くに違いない」
「ど、どうして、卯木さまが、ここへは?」
「これだけは、雨乞い祭りの霊験だった。ちょうど虫干し武具の修理に、住吉から来ていた柳斎という者が、先夜、水分の社の下から救うて来たのだ。すんでのこと、六波羅者の手に捕まるところをば」