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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
はやく支度しておけい」
沈着な俊基だが、いつになく、その口ぶりもせかせかしていた。
「心得まいた」
菊王もまた、駈けまろぶばかり立ち去ってゆく。――ここは二条京極の中川のほとり、大内の宮門はすぐそこだ。牛車の牛の歩みでもつかのまといっていい。
しかし、そのわずかな距離も、白昼の世間であった。
「宮門へ入りさえすれば」
とは思うものの、そこまでの不安は百里の難を行くにまさる。――かたがた、吉田定房にたいする憤りやら、宮廷内の動揺の推測やら、胸を搏つ波、なに一つ、飛沫をあげぬものはない。
「殿。……お牛車の支度な、ととのうてござりまするが」
「おう、いままいる」
俊基は、冠の緒を結びながら、小ぜまい玄関の式台へ早足に奥から出て来た。
「あ。弁ノ殿」
すると、すぐ彼の後から、ここの主の伶人(楽師)が小走りにつづいて来て、
「ご装束の石帯(皮帯)が、お腰の辺で縒じれておりまする。お直しなされては」
と、注意した。
「ヤ、そうか」
俊基は後ろを撫でて、
「菊王。着がえてまいる。――その間に、路地のあたりを、念のため、よう見とどけておいてくれい」
言い残して、急いでもとの部屋へもどり、そして主の手もかりて、束帯を着け直した。