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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
では、風入れを待つとするか」
答えてくれる者はない。半ばは独り言なのである。
するとほどなく、主の諏訪入道真性のせがれ三郎盛高がやって来て、錠ノ口を開かせ、内の俊基へ、
「――弁ノ殿、こうお出でください。ほかに室の設えが出来申したゆえ」
と、案内に立った。いや取り囲んで、ひき連れて行ったという方がただしい。
夏じゅう日光に浴さなかった彼の皮膚は、明るい廊で見ると、植物性の白さをおび、七十余日の髯が蓬々としていた。
移された部屋は、客間隣の袖書院であった。円座に着きながら、ふと見ると、無地の銀屏風が一隅にめぐらしてあり、そこに鏡立と、耳盥や剃刀などがそなえてあった。
「ははあ……。さては」
心でうなずいていると、はたせるかな、盛高の暗示的なことばが、いつもに似ず、こう、ていねいだった。
「台命なるまま七十余日、お預り申しおいたが、これも何かの御縁でやあろう。……ついては、こよい一夜を、せめて涼やかにお過ごし申し上げんと存じ、あれに剃刀をおきましたゆえ、湯を浴み、髯などもお剃りあって、むさい囚衣も、湯殿にてお着かえなされたがようおざる」
「かたじけない」
俊基は、心もち頭を下げた。