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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
その日、うす曇りの、時刻は午すぎ。
工藤高景は、一隊の兵をつれて、諏訪家へのぞみ、断罪の令書をしめして、日野俊基の身を受けとった。
「待っていた」といわぬばかりに、俊基は迎えの箱輿へ歩み寄った。――輿には、横顔が見えるていどの覗き窓が切ってある。
町は物見だかい人群れだった。工藤の郎党は青竹を持って先に歩き、輿をはさんで、騎馬と兵の一隊がつづいて行く。
途々、俊基は荒涼たる鎌倉のすがたを見た。――過ぐる日の大地震の惨害もあるが、もっとまざとしていたのは、ここではすでに戦備が始まっていることだった。戦争とは布令られてないまでも、無言な緊張とうつろとが、市民の顔には見て取れた。
「ひとには裏切られたが、自分の死は、むだではない。佐渡の資朝卿とて同様に」
輿の内で、彼は数えた。
かつて、自分が密かに説いて廻った諸国諸山の宮方お味方の幾多の名を。――高野もある、伯耆の大山寺もある。叡山、奈良はいうまでもない。
さらに、反幕的な土豪やら、不平武士との盟約など、十指以上もかぞえられる。
しかし、彼はその中に、河内の楠木一族をかぞえることはしなかった。石川の散所ノ太夫義辰は加えても、