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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「助光、ゆめ、虚勢ではない。わしの心は今この通りだ。かくの如き姿で逝ったと小右京には告げてくれよ。はやこの期だ。言いおくことは何もない。……ただ倖せに過ごせとな。お汝にも……あとをたのむぞ。たのみおくぞ」
せつな、ずかずかと、背中にせまる足音がした。俊基は、すぐきッと背すじを正した、そして、検使の床几――諏訪三郎や工藤高景の方へ向って目礼した。なお、その眸が、しずかに、矢来のまわりを見まわした。
曇り日だったが、夏なので女も男も笠している姿が多い。その笠眉深な人のひとりに、俊基はふと、昨夜の客とそっくりな顔を矢来の蔭に見た。「……高氏らしい」と、思ったが、心は小右京の面影をつかまえて、その幻影を掻きみだすまいとしていた。
「弁ノ殿、およろしいか」
頭上で声がした。びゅっと、素振りした太刀把りの太刀先から飛んだ露の水玉が、俊基の体の外をまず斬った。
「いつでも」
彼は、鬢の毛をなであげて、白い頸を素直にのばした。
刑がおわると、刑場の竹矢来はすぐ取り壊された。いと無造作に、血のあとは、掘られた穴に消され、人夫らの手で、形ばかりの土が盛られた。
「よし」
そこまでを見て、工藤高景、諏訪三郎以下、その日の役人は、一個の首桶を擁して、みな立ち帰った。