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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

――源氏の嫡流足利家に生れた自分が、いま、北条氏に取ッて代ろうとするのに、なんの不思議があろう。――なんの悪か、と彼は思う。

かの“鑁阿寺の置文”は、彼の初心を目ざめさせたものであったが、鎌倉在住このかたの頼朝崇拝は、いよいよその大望の抱卵に、翼やら嘴などの、生き物としての形をそなえさせて来たものといっていい。

だから彼が、暗に、宮方へ寄せる好意のごときも、宮方の思想やその“世直し”の実現に同調しているわけではさらさらないのだ。――自己の遠大な設計を徐々にすすめてゆくための、方便でしかないのである。

そこで、その彼からいま、

「佐渡へ」

と、命じられ、また、

「抜かるな」

と、いわれた一色右馬介が、深いところは、何も問うなく、「心得まいた」として、ただちにその晩、小壺ノ浦でふたたび高氏に別れて去ったのも、じつに幼君又太郎時代からの傅人だった右馬介なればこそだった。高氏の腹の中に入った者のように、高氏の胸中図は、よく読みぬいていたのである。

別れた高氏は、やがて滑川のほとりで待っていた郎党をつれ、大蔵ノ邸へ入って、その夜もまた幕府の“預かり人”である忠円僧正とおそくまで話しこんでいた。