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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「つつむまい。いかにも儂は日野右少弁だが、そちが告げたい真意は何か」
「はい。街で聞いた六波羅衆のうごきによると、やがて川筋すべても洗われて来るようです。また、高野路の諸所も手配りが行き渡っているとか。どうぞ、お旅路の先をかえて、一刻も早く、ここをお落ちなされますように」
男の忠告を、俊基は疑わなかった。もし欲心の上なら、密訴して、六波羅兵をみちびいて来るはずだ。――さはなくて、こちらの一片の情に、彼も恩を感じてくれたものだろう。
「かたじけない」
と、心から彼はいった。
男は、彼のいんぎんな礼に、かえってあわてて。
「いえいえ、お礼なら手前の方こそ、山々申さねば相なりませぬ。それよりは、少しもお早く、ここを落ちる御思案をお決めなされませ」
「そちは、当所の者か」
「ごらんの通りな舟芸人。まずは散所の住民も同様な者でござりまする」
「ならば、この辺の地理には詳しかろうが、高野路もふさがれ、水路もならぬとすれば、袋の鼠、どう落ちのびる道があろ」
「高野へは、ぜひともお越しなさらねばなりませぬか」
「いまは実を打ち明けるが、或る御使いをおびて、第一に紀州高野へ、次に伯耆の大山寺、越前の平泉寺と、順次にめぐって、やがて帰洛もいそがねばならぬ身」