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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「知っている。本間三郎が斬ったのだ」
阿新は泣きもせず言った。
「それなのに、三郎殿が、なおあなたを都へ帰さぬのは、幕府のさしずです。……そのうち宮方との合戦になれば、和子様とて宮方の片割れ、なお、帰されますまい」
「では、いつまでも、わが身を、佐渡へおくつもりかしら」
「そうです。が、お案じなされますな。この柳斎がお供して、きっと都へお帰しいたしまする」
「柳斎……」阿新は、初めて、少年らしい嗚咽をして、しゃくりあげた。
「ほ、ほんとは、帰りたいんだよ。……お母あさまが、どんなに、案じていらっしゃるか知れないんだ。柳斎、逃げよう」
「逃げましょう。柳斎におまかせ下さい。この十三夜の月見には、よい首尾がありまする」
その日までに、右馬介は城の搦手や浦の地理などもよく探って、密かに機会を窺っていた。
十三夜の“後の月見”は、あいにくな晩となった。
雑太ノ城では、例年、家中の月見宴があるので待たれていたが、夕方から風雨がつよく、まっ暗に暮れていた。
為に、行事も中止となり、奥曲輪は、ひッそり閑としたものだったが、本間三郎の取巻きどもは、
「無月の宴もまた、よかろうではないか」