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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
――しかし、これが公卿というものか、姿は、常と変らぬ静かな人に見えていた。
まもなく。散所民の板小屋や繋り舟の苫に、チラチラ灯を見る夕となっていた。すると、街から出屋敷の長い土塀の外へかけて、
「喧嘩だ、喧嘩だっ」
と、俄な人つむじの声がわき揚がッていた。
喧嘩は散所街の名物といってもいい。
が、今夕のは、ただ事でなかった。出屋敷をつつむ六波羅の捕吏と、散所民との間に起ったものである。
昼、淀川方面から古市へ乗り込んで来た一群があった。これを待ッていたらしい地元の放免を先頭に、出屋敷の掘割口だの裏門までの、地形しらべにも念を入れた上、やがてのこと、
「それっ」
捕手頭の顎合図の下に、
「この内に、御不審のかかった人間が潜伏しおるとの報らせである。手抗う者は、用捨なく六波羅へ曳くぞ。邪魔するな」
とばかり、一挙に出屋敷の内へ、混み入ろうとしたものだった。
この日、豊麻呂の旨をふくんで、すでに殺気だッていた出屋敷の雑用人らは、
「そんな者はいない!」
「よそに問え」
「散所ノ太夫のおゆるしがなくば一歩も通せぬ」
と、棒、槍、野太刀、狩弓などを持って立ちふさがった。