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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「二十六になりまする」
糸のような声である。
二十六か、女ざかりだナ、と鬼六は思う。さらに「……もっと、顔を上げろ」といって見たかったが、気がさして、鬼六もそこまでは、言いえなかった。
苫舟の底に病んで久しいせいだろう。そんな者の妻とは見えぬ嫋々しさであった。梨の花みたいな皮膚である。いやいや、かりに五ツ衣の裳を曳かせ、雲の鬘に、珠の釵を簪させなば……と、鬼六は眩のような空想にとらわれた。それはまた彼の詮議立てのうえにも、酷い興味をそそッていた。
「聞けば、申楽を渡世とする舟芸人の夫婦とのことだが、そちも良人も、ただの散所者ではあるまい。生国はどこだ」
「……はい」
「はいではない。どこだ、生れは?」
「都の辺りでございます」
「そうだろう。都ならではの容姿が見える。して良人の姓は」
「雨露次といいまする」
「それは芸名と申すもの。本名を申したてい」
「いえいえ、七条河原の小屋仲間にいた根からの貧しい芸人です。ほかに名はございませぬ」
「たしか、か」
「……はい」
「ま。そこは、後で洗うとしよう。では、その雨露次は、昨夜から今暁へかけて、病人のそちを独り舟へ残して、そもどこへまいったのか。