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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
先ごろ六波羅兵のため、ここへ曳かれて来た者だが」
と、訊ねている声がする。
さっきから、まっ暗な境内を、さまよい歩いていた数名の武士があったが、その人影が、ここの小さい灯を探りあてて来たものらしい。
「どなた様で?」
用心ぶかく、妙達は、自分一人で縁へ出た。武士のうち、ひとりは際だって若かった。
その若い武士が言った。
「わしは、石川ノ豊麻呂だが」
「えっ。散所屋敷の若殿でいらっしゃいますか。ならば、仔細はなかろう。雨露次さんは、おりますが」
「卯木とやらは」
「はい。そのお内儀も」
「死んではおらなかったか」
「何を仰っしゃいます。亡くなったのは、赤子の方で、こよいは、その通夜をいとなんでいたところでございますがな」
豊麻呂は、つれていた家来と顔見合せて、ほっとした様子だった。そして、彼に代って、家来の一名が、事のわけを、こう話した。
数日前、日野俊基の消息をたずさえた高野の一僧が、石川城へ連絡に来た。
その消息の端に、「――過って、雨露次の妻へ、毒物を与えた。過失といえ、悔恨にたえぬ。何とか、罪の償いをしてやってほしい」と、伝えてきたものだという。
が。その毒薬は、あの折、雨露次がいぬ間に、苫舟を襲った捕吏の足もとに蹴ちらされてしまい、卯木は、それを手にさえしていなかったのだ。