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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

「堂守。……何ぞ、夫婦の持ち物でも、残っていなかったか」

やがて、訊ねたのは、正季といわれた侍の方だった。

「べつに……」と、妙達も今は力なげに。「元々、何も持たぬ、さすらい芸人ではございますしな。けれどただ、てまえへ宛てて、こんな礼を一筆、書き残して行きおりましたが」

手にしていた紙片を、彼へ示した。

「どれ、どれ」

彼は、その女文字の墨あとを、読むでもなく、しげしげ見入った。ついには、睫毛がキラとしかけてきたが、途端に、さりげなく巻きおさめて。

「堂守。この文は、わしへくれぬか」

「ええ、どうぞもう」

「そちは、大そう親切にしてやってくれたそうな。これはわしの寸志」

ほかに持ち合せもなかったとみえ、刀の笄を抜いて、妙達に与えた。そして連れの豊麻呂へ、

「ぜひもない、立ち帰りましょう。拙者の耳にしたのが、ちと遅すぎた。もすこし早く、あなたと、お打合せが出来ていたらなあ」

淋しげな微笑をしいて見せながら、共に悄然と、帰って行った。

それを山門まで見送って後。妙達はふと、礼に貰った笄に気づいた。布目象嵌の部分に金で“橘”の紋が入れてある。

「ああ。では、あの人は?」