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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
女は、その間に、伊賀国で亡き人になっていた。――また、まもなく正中の元年、後宇多法皇もみまかられた。
「恋にやぶれ、恩寵をうけた法皇にも別れ、わがゆく途は、出家一途と思いきわめたのは、その時でおざった……」
こう、結んで兼好法師は、
「伊賀の女の墓へは、その後、何度となく詣っておる。ふと、女に会いとうなると、伊賀へ行くわけでおざるわ」
と、こぼれる涙を、隠そうともせず、手のひらで、汚い顔じゅうに、こすり廻した。
ふたりは、兼好法師自身の、恋のざんげやら、出家の動機を、身につまされて聞いた。「……この人へなら」と、人には語らぬ身の上も、聞いてもらいたい程な心になったことらしい。
以下は。
雨露次夫婦が、いや、服部治郎左衛門元成と妻の卯木が、その夜、初瀬蛍の吹き舞う川音のなかで、兼好へ虚心に語ったものである。恋にからむ恐ろしい時局の一秘事も、身の素姓も、いまは悪びれなく一切を話す夫婦であった。
× ×
元成は、伊賀ノ国小馬田の小領主、上島入道の次男だが、同族の服部家へ、養子となった。
伊賀の服部、上島、太田などの族党は、平家の世頃、一門と共に栄えた伊賀ノ平内左衛門家長の流れである。