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ゆきぐにのはる
雪国の春
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《雪国の春(ゆきぐにのはる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 136,000 字 · 266 頁
五
五
村の人との話はもうすんでしまったから、連れの者のさしまねくままに、私はきょとんとして砂浜に出てみた。そこにはこのごろ盛んにとれる小魚の煮干が一面に乾してあって、驚くほどよくにおっていた。そのたくさんの筵の一番端に、十五、六人の娘の群れが寝ころんで、われわれを見て黙って興奮している。白い頬冠りの手拭が一様にこちらを向いて、もったいないと思うばかり、注意力をわれわれに集めていた。何とかしてこの人たちと話をして見たら、いま少しは昔の事がわかるだろうかと思って、口実をこしらえて自分は彼らに近よった。
ハマナスの実は村の境の岡に登ると、もういくらでも熟しているとのことであった。土地の語ではこれをヘエダマというそうで、子供などは採って遊ぶらしいが、わざわざそんな物を捜しに遠方から、汽車に乗って来たのが馬鹿げていると見えて、ああヘエダマかといって、互いに顔を見合わせていた。
この節はいろいろの旅人が往来して、彼らをからかって通るような場合が多くなったためでもあろうか。うっかり真に受けまいとする用心が、そういう微笑の蔭にも潜んでいた。全体にも表情にも、前に私たちが感じて帰ったようなしおらしさが、今日はもう見出されえなかった。