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ゆきぐにのはる

雪国の春

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《雪国の春(ゆきぐにのはる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 136,000 字 · 266 頁

青空文庫

無し無しといふもことわり我姿あるこそ無きのはじめ也けり

こんなおかしな禅問答の歌までが、よくは解らぬために疑いの種に算えられたらしい。また福仙という鏡磨きが時々このお寺の近くにきた。それを見て和尚がある時、あいつは義経公の旗持ちであったといった。それを聞いて福仙も負けぬ気になり、和尚さまこそ常陸坊海尊なのだといったとかで、すっかり土地の人が信じてしまうことになったのである。近くはまた天明年中にも、上州伊香保の木樵で下駄灸というまじないをしていた親爺が、やはり義経の旗指しであって、海尊からこの名灸の伝授を受けたために、長命しているように評判された。いずれも本人はたいてい白状せず、世間がだんだんにそうしてしまうのには、何かいわくのあったことらしいのである。つまりは早くから常陸坊は高館で死なず、そうしてまだ生きているという風説がなかったら、とうていつぎつぎにこんなでき事も起こらず、一方にはまたいつまでもこの種のでき事が続くために、どうでもこの人を生かしておかぬと、昔話が成立たぬから困るというような事情が、古い昔からつい近年まで、どこかの隅に隠れてあったのではないかと思われるのである。