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ゆきぐにのはる

雪国の春

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《雪国の春(ゆきぐにのはる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 136,000 字 · 266 頁

青空文庫

土地に住む者が静かにその閑暇をもって、独立して考えてみるより他はないのである。

あるいは考えて見た人も多かったのかもしれぬが、少なくともそれは山一つ彼方までも伝わらなかった。それゆえに今日のごとく、書物で学問をする風が盛んになってくると、かえって谷々の冬は寂しくなるのである。コタツのついでをもって今少しくこの点を話してみたい。

鈴木牧之の『北越雪譜』の中には、信州秋山郷の山家の夜の光景が画に描かれている。藁で造った一人用二人用の叺の中に、夫婦親子が首から下を差し入れて、囲炉裏の四側にごろごろと寝ている。珍しくもまたおかしい風俗には相違ないが、世間を知らぬのでこの辺ばかり、永らくそのような生活をしていたというのみで、かつて一度はわれわれ一同の祖先も、美女も勇士もこうして藁の中に、寝ていた時代があったのである。

北へ北へとこの国を開いて来た民族が、今もって稲を作らずには片時も安心しておられぬというわけは、稲が故郷の亜熱帯の植物であって、神の粢も祭の日の米の飯も、これが最第一の資料だというばかりではなかった。冬の長夜を安々と睡り去るためには、なおその上に年々の新藁と、新籾殻とがたくさんに入用であった時代が、あまり久しかったゆえに今もその癖が抜けないのである。