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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選(ひだのかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 頁
「阿母さん、お葉は……。お葉は何処へ行った。」と、彼はお杉の腕を掴んで、力任せに引摺廻した。
「何、お葉が居ない。」と、お杉も初めて眼をいた。
「阿母さん、寝ていたのか。」
「例の通り、眼を瞑って神様に祈っていたのさ。」
「そんなら判りそうなものだ。お葉は居ない、お葉は逃げた。」
重太郎は足摺して泣き出した。
「お葉が逃げた……。」と、母も眼を晃らしたが、「心配お為でない。何処へ行くものか。家へ帰ったら又連れて来るから……。」と、さびしく笑っていた。
「何日連れて来て呉れる。」
「明日でも、明後日でも……。」
十日の中には死ぬと予言したお杉婆にも、流石に明日の自分の運命は判らなかったと見える。彼女は沈着払って我子を慰めた。が、若い血の燃ゆる重太郎には、明後日は愚、明日をも待たれなかった。彼は宛がら狂える馬のように跳り上った。
「否だ、否だ。今夜中に連れて来て呉れ。」
「でも、今夜は不可い。妾は他に用が有る。明日までお待ちよ。」
重太郎は既う耳にも入れなかった。これから直にお葉の行方を追う意であろう、彼は旧来し方へ直驀地に駈けて行った。
(三十四)
お葉は虎ヶ窟から虎口を逃れた。