Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
だいぼさつとうげ
大菩薩峠5
中里 介山
Read 大菩薩峠5 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,120 characters · 516 screens
あの男が来るたびに兵馬さんは落着かなくなって、その都度、お金の心配をなさるような御様子がありありとわかるのである。夜更けになってお帰りなさることもあるし、また、どうかすると一晩泊ってお帰りになることもあるが、そのお帰りになった後のお面の色は、打沈んで、太息をついておいでなさるのが、今までの兵馬さんとはまるっきり違う。
もう一人の来客は、たしか刀屋であると言っていたが、もしや兵馬さんが御所持の腰の物を、あの刀屋にお払い下げになるつもりではあるまいか……そんならばほんとうに一大事。
それを思うと、覚えず涙が眼の中にいっぱいになって、幾度も着物を畳み直しているうちに、ふとその袂の中から、読み捨てた一封の手紙が、何か物を言うように綻び出しました。
お松は、はっとして、その手紙を手に取り上げて見ると女文字です。ひろげて見ると、嫉ましいほどに手ぎわよく書いてあって、文言は読まない先に、その水茎のあとの艶めかしさと、ときめく香が、お松の眼をさえくらくらとさせるようでありました。お松は、一種の口惜しさがこみ上げて、手紙を取る手がワナワナとふるえました。
その時に、廊下で人の足音がします。