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てんしゅかくのおと
天主閣の音
国枝 史郎
Read 天主閣の音 (てんしゅかくのおと) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 38,941 characters · 79 screens
……では妾は帰って行くよ」
出入口の蓋が退けられた。女の立ち去る気勢がした。老人は注意して床下を出た。表の方へ行って見た。一丁の駕籠が走っていた。
老人は再び裏へ廻り、出入口の蓋をした。それから三日月を肩に負い、自分の屋敷へ引っ返して行った。
南蛮温室の寝台の上で、尚香具師は眠っていた。
と、ノロノロと身を蜒らした。軈て幽に眼を開いた。一つ大きな欠伸をした。
「ああ素晴らしい夢を見た。……だが何うも体が怠い」寝台の上へ起き上った。
「お若いの、どうだった?」その時側で人声がした。そこに老人が立っていた。気味悪くニヤニヤ笑っていた。
「おお老人、其処にいたのか。全くお前さんの云う通り、この眠剤は素晴らしいね。俺はすっかり驚いて了った」
「音楽の音が聞えたろう」
「おお聞えたとも、聞えたとも、何んと云ったら可かろうなあ、迚も言葉では云い現せねえ」
「美しい景色が見えたろう」
「天国と極楽と竜宮とを、一緒にしたような景色だった。……だが何うも体が怠い」
「そいつあ何うも仕方がねえ。この眠剤の性質だからな」
「俺は動くのが厭になった」
「アッハッハッハッ然うだろうて。そいつも眠剤の性質だ」