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てんしゅかくのおと
天主閣の音
国枝 史郎
Read 天主閣の音 (てんしゅかくのおと) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 38,941 characters · 79 screens
一九
「お気の毒さま。まだお寝んね」こう云って香具師は追い返した。
夕方二人は眼を覚ました。
「ああ綺麗な夢だった」だるそうに宗春がこう云った。
「眠剤の功徳でございます」さも得意そうに香具師は云った。
「俺はお前へ礼を云うよ。全く此奴は可い薬だ。だが併し覚めた後は、ひどく万事が物憂くなる」
「可い後は悪いもので」こう香具師は笑い乍ら云った。「両方可いことはございません」
「政治を執るのが厭になった。眠剤ばかり喫んでいたい」
「大変結構でございます。御大名方と申す者は、決して決して御自分で、ご政治など執るものではございません」変に香具師は真面目に云った。「〈居附造りの築城〉もお止めなさるが可うございます」「そうさな」と宗春はだるそうに「〈居附造り〉と眠剤と、どっちを取るかと訊かれたら、俺は眠剤を取るだろう」
一九
そこへ老女が遣って来た。
「ナニ、成瀬が会いたいというのか。また、諫言かな、うるさい事だ。会えないと云って断わって了え」
こう云ったものの立ち上った。
「あの渋っ面の成瀬奴に、ひとつ眠剤を喫ませてやろう」
手頼りない足どりで部屋を出た。
お半の方は考えていた。