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てんしゅかくのおと
天主閣の音
国枝 史郎
Read 天主閣の音 (てんしゅかくのおと) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 38,941 characters · 79 screens
一六
「これはこれは不思議な薬、ほんとに可い物を下さいました」お半の方の涼しい眼が、この瞬間キラキラと光った。
「香具師、そいつは本当かな」宗春は如何にも興ありそうに「本当にそんな夢を見るのかい?」
「何んの偽り申しましょう。極楽の夢、お伽噺の夢、珊瑚の夢、琥珀の夢、はいはい見えるのでございますとも」
「俺も一服喫って見たいものだ」
「では今晩めしあがりませ」お半の方は意味ありそうに云った。
一六
「ねえ殿様」とお半の方は、溶けるような媚を作り「いろいろ珍らしい機械だの、眠剤などを戴いた上は、何か此方からも香具師殿へ差し上げなければなりますまい」
「うん、いい所へ気が付いた。お前何か欲しいものは無いか」
「はいはい有難う存じます。さあ只今は是と申して……」
「ふうん無いのか、慾の無い奴だな」
「おお殿様、こうなさりませ」お半の方が口を出した。「物慾の無い香具師殿、物を遣っても喜びますまい。それよりご禁制の天主閣の頂上へ上るのをお許しになり」
「これこれお半、それは不可ない」宗春は鳥渡驚いたらしく「家来共が苦情を云おう」
「ホッホッホッホッ」とお半は笑った。「六十五万石のお殿様が、家来にご遠慮遊ばすので」