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てんしゅかくのおと
天主閣の音
国枝 史郎
Read 天主閣の音 (てんしゅかくのおと) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 38,941 characters · 79 screens
「かしこまりましてございます」
「それは然うと御金蔵には、多額の黄金が有るそうだな?」
殿と呼ばれる四十男は、此処でキラキラと眼を光らせた。
「御三家筆頭の尾張様、唸る程黄金はございましょう」
三十がらみの男が云った。
「それが何うも可くないのだ。狂人に刄物という奴さ、不祥のことだが尾張様に、ご謀叛のお心などあった時、多額の軍用資金の貯えがあると、ちと事がむずかしくなる」
「ご尤もにございます」今迄じっと黙っていた三十四五の一人の男が、愁わしそうに合槌を打った。
「全く狂人に刄物だからな」四十男は繰り返した。
「将軍家も夫れをご心配になり、隠密として此俺を、こっそり名古屋へ入り込ませたのだが」
「如何でございましょう御金蔵の中を、何んとかしてお調べ遊ばしては?」
三十四、五の一人が云った。
「だが是は不可能だよ。俺は江戸の町奉行、江戸のことなら何うともなるが、此土地では何うも手も足も出せない」
「大岡越前守忠相と宣られ、ご機嫌をお伺いにご登城なされ、伝手にご金蔵をお調べになっては?」
「吉田三五郎、白石治右衛門、二人の股肱を引き連れて、名古屋へこっそり這入り込み、二流所の旅籠へ宿り、滞在していたとお聞になっては、尾張様にも快く思われまい」