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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
Read 故郷七十年 (こきょうしちじゅうねん) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 257,350 characters · 507 screens
心あいの風よ、親にいってくれないか、私は越の国の武生の国府にいて難儀をしているから、お前があっちへ行くのなら親に報せてくれ
この歌のあひの風はハ行になっているために、お前の心と私の心が合うという風に解釈されてきたが、やはりもとは饗の字に当るアエ・アイと同じ、たよりをもたらす意味だったのである。この風が吹けばうれしいことばかりで、一方では船が入って来る、砂浜にはいろいろの物が吹き寄せられて生活をうるおしてくれる、人々の喜ぶ風だった。
私も二十四歳の時、三河の伊良湖岬に一カ月あまり滞在して、風の吹いた翌朝など椰子の実や藻玉を拾ったことがある。島崎藤村の長詩「椰子の実」は、その時の私の土産話を材料にして作ったものであることは前に話したが、あの辺から伊勢湾にかけては漂着物が大変に多いところである。伊勢湾の突きあたりの愛知郡は旧くは年魚市潟といって、楊貴妃や徐福が漂着したと伝えられるほど、遠くから種々のものが流れついたのであった。このアユも日本海側できくアユの風のアユと同じ意味であろうし、チは風のことで、つまりごちそうをもって来る風という意味であった。
このようにアイという言葉は日本海側だけでなく、太平洋海岸でも有名なアイチの名を残しているほどで、この風がなかったら日本の本当の文化は進まなかったのではなかろうかと