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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
Read 故郷七十年 (こきょうしちじゅうねん) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 257,350 characters · 507 screens
次兄、井上家に入る
次兄、井上家に入る
次兄通泰の養家井上家は、辻川と同じ元田原村の一部落、吉田という所の旧家であった。村の中心をなしていた名家で、村との関係がまるでお寺と檀家のように思われた。他にも独立した家があったが、井上家を囲んで何十軒かの小さな家が周囲に集まっていた。播州の海岸に英賀という所があるが、井上家は初めそこにいたという。小寺家の統治時代というから、ずいぶん古いことだが、その時代に今の吉田へ移って落着いたように伝えられている。系図に依れば、河野の一族ということで、現に河野通有の兜というのが代々伝わって来ている。次兄の歌の中で比較的いい歌に、
遠き祖の片身の鎧万代にいかで我が名も伝へてしがな
というのがある。兜を鎧というのは普通よくあることであって、これは有名な歌になり、父なども非常に喜んだ歌であった。次兄は父母が姫路の熊川舎に学監として行っていた時代に、そこで生れ、私と年が九つちがっている。十一の年の暮に養子に行っているから、幼い私の知らないころの話であった。私が物心ついた時にはもう井上の兄さんといっていた。幼名は泰蔵といったが、河野の一族に入ったので、通泰と名を改めたわけである。