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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

Read 新編忠臣蔵 (しんぺんちゅうしんぐら) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 337,181 characters · 676 screens

Aozora Bunko

煙硝番

『――いずれ、其儀に就ては、後より詳しく、御書面で申しまする。一刻を争って、お国表へ急ぐ途中、母上の御棺側をも仕らず、心苦しくは存じまするが』

『御奉公が大事だ、行け』

『はい』

三平は、駕籠も出ずに、駕籠の中から、母の柩に掌をあわせた。藤左衛門も、前の駕籠にて、同じように、そっと掌を合せていた。

煙硝番

山は暢気だと云っては、みなよく来る。ゆうべ、家中の若侍たちが、一升提げて、やって来たので、この番小屋で、平家琵琶を弾じるやら、陣中節を謡うやら、大賑いをやった。久しぶりで、横川勘平は、浩然と、無聊を慰められた。

『寒い……』

気がついて、身ぶるいを覚えながら、小屋の中を見まわすと、有明燈の油は絶えなんとしているし、一升徳利は横に寝ているし、人も非ず、炉に火の気もあらず、自分は、着た儘で、うたた寝をしていたらしい。

涎が、肱に濡れていた。

『ああ、渇いた』

むっくりと、起き上って、伸びをする。

毛の生えている拳が、小屋の天井を突きぬけそうだ。

横川勘平は、身長六尺ある。十人力という評判であるが、実際それぐらいはあるかも知れない。この番所住いでは兎に角、窮屈に出来上っている体格だ。