Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
Read 新編忠臣蔵 (しんぺんちゅうしんぐら) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 337,181 characters · 676 screens
暮色の底
大工共へ、十枚ほど削らせい』
筆を執って、藩札六歩換えの布令書の文案を認め、それを岡島八十右衛門の手へわたして、
『立札へはこのように書いて、各所へ打て。――早くじゃぞ』
一刻をも急くように吩咐けた。
板が削れたと知らせてくる。
岡島や、組の者が、あわただしく立ってゆくと、入れちがいに、城下から離れた土地にいた為に、遅ればせに馬で駈けつけてきた加東郡の郡奉行吉田忠左衛門が、汗まみれな額に埃をつけたまま、用部屋の入口に姿を見せ、
『おうっ……』
と、内蔵助の振向いた顔へ云った。
『おお……吉田氏か』
それまでは忘れていたかのような一個の感情が、忠左衛門の姿を見ると、急に胸から揺りうごかされて来て、内蔵助の眼がしらに、熱いものがつきあげた。
暮色の底
六十歳とは見えない吉田忠左衛門の骨ぐみであった。腰も曲がっていないし、いまだに背は六尺もあるという、脣が大きくて、老人のくせに甚だ朱い。髪は白髪になりきらず玉蜀黍の毛のようだし、田舎にばかり役勤めをしているせいか、皮膚の黒いことは百姓に劣らない。容貌どことなく魁偉なのである。
けれど、気は女のように優しい。任地の百姓は、慈父のようになついていた。