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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
同時に一喝が下りました。
「眉間をみいッ。眉間の三日月をみいッ。天下御免の通行手形じゃ。祖師日蓮のおん名のために鞘走らぬまでのこと、それを承知の上にて挑みかからば、これなる眉間傷より血が噴こうぞ」
微笑しながらずいずいと行くのに手が出ないのです。その騒ぎを聞いたか、わッと参籠所から雪崩出て来たのは、善男善女の真黒い大集団でした。見眺めるや退屈男の声は冴え渡りました。
「きけ! きけ! いずれもみなきけ! その方共の懐中を狙うたお山荒しの女スリは、直参旗本早女主水之介が押え捕ってつかわしたぞ! いずれも安心せい!――ではうしろの二人。あれが総門じゃ。ゆるゆる参ろうぞ」
威嚇しては押し分け、押し分けては威嚇しながら、悠々と総門外へ出ると、冴えたり! その叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)のすばらしさ!
「さあ参れッ。この門を外に出でなば斬り棄て御免じゃ。三目月傷も存分に物を言おうぞッ。遠慮のう参れッ」
だが来ない。来られるわけがないのです。本当に三日月傷があやかにもすさまじく物を言うのであるから、来られるわけがないのです。――その代りに、ちょろちょろと、やって来たのは、どじょう殺し持参のあの三的でした。