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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
お直参の一語に、ぎょッとなったらしいが、しかし馬はそのままでした。と見るや退屈男は、ついと身を泳がして、傍らの捕り手が斜に構えていた六尺棒を手早く奪いとるや、さっと狙いをつけて馬腹目ざしながら投げつけたのは咄嗟の早業の棒がらみです。――唸って飛んで栗毛の足にハッシとからみついたかと見えるや、馬は竿立ち、笑止にも乗り手は地に叩きつけられました。
「みい、当藩目付とあらば少しは分別あろう。早う下知して捕り方退かせい」
「………」
「まだ分らぬか。わからば元より、江戸大公儀御差遣の隠密に傷一つ負わしなば、伊達五十四郡の存亡にかかろうぞ。匆々に捕り方退かせて、江戸へ申し開きの謝罪状でも書きしたためるが家名のためじゃ。退けい。退かせい」
「申すなッ。隠密うける密事があらば格別、何のいわれもないのになにゆえまた謝罪するのじゃ。紊りに入国致した隠密ならば、たとい江戸大公儀の命うけた者とて、斬り棄て成敗勝手の筈じゃわッ。構わぬ、斬ってすてろッ」
「馬鹿者よ喃。まだ分らぬかッ。石の巻のあの不埒は何のための工事じゃ」
「えッ――」
「それみい、叩けばまだまだ埃が出る筈、この早乙女主水之介を鬼にするも仏にするも、その方の胸一つ出方一つじゃ。