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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens

Aozora Bunko

「その取込事にかかわる急用で参ったのじゃ。おらば控えさせい」

「失礼ながらどちら様でござります」

パラリと静かに頭巾をとると、黙ってさしつけたのは名物のあの眉間傷でした。

「あッ、左様でござりましたか。それとも存ぜず失礼致しましてござります。――旦那様! 大旦那様! 早乙女の御殿様がわざわざお越しにござります! 御早くどうぞこれへ!」

仰天したのは当り前です。あたふたと姿を見せて、物も言えない程に打ちうろたえながらそこへ手をついた六兵衛へ、穏かに言葉をかけました。

「そのように固くならずともよい。主水之介不審あって罷り越したのじゃ。土左船の者達、こちらへ参った筈じゃが、伜共の死体もう届いたであろうな」

「へえい。と、届きましてござります。半刻程前に御運び下さいましたが、それがちと――」

「いかが致した。生き返ったか!」

「ど、どう仕りまして。伜とは似てもつかぬ全然の人違いなのでござります」

「なにッ。人違いとのう! ほほう、そうか。ちとこれは面白うなって参ったかな。なれども死顔は変るものじゃという話であるぞ」

「よしや変りましても、親の目は誰より確か。年恰好、背恰好はどうやら似ておりまするが、伜はもッと優型でござりました。