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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens

Aozora Bunko

鳴門秘帖

夜魔昼魔

夜魔昼魔

安治川尻に浪が立つのか、寝しずまった町の上を、しきりに夜鳥が越えて行く。

びッくりさせる、不粋なやつ、ギャーッという五位鷺の声も時々、――妙に陰気で、うすら寒い空梅雨の晩なのである。

起きているのはここ一軒。青いものがこんもりした町角で、横一窓の油障子に、ボウと黄色い明りが洩れていて、サヤサヤと縞目を描いている柳の糸。軒には、「堀川会所」とした三尺札が下がっていた。

と、中から、その戸を開けて踏み出しながら――

「辻斬りが多い、気をつけろよ」

見廻り四、五人と町役人、西奉行所の提灯を先にして、ヒタヒタと向うの辻へ消えてしまった。

あとは時折、切れの悪い咳払いが中からするほか、いよいよ世間森としきった時分。

「今晩は」

会所の前に佇んだ二人の影がある。どっちも、露除けの笠に素草鞋、合羽の裾から一本落しの鐺をのぞかせ、及び腰で戸をコツコツとやりながら、

「ええ、ちょっとものを伺いますが……」

「誰だい」と、すぐ内から返辞があった。

「ありがてえ、起きていますぜ」

後ろの連れへささやいて、ガラリと仕切りを開ける。中は、土間二坪に床が三畳、町印の提灯箱やら、六尺棒、帳簿、世帯道具の類まであって、一人のおやじが寂然と構えている。